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書籍

発刊 2022.10

YOUR TIME ユア・タイム

4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術

  • 鈴木 祐

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  • 河出書房新社

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  • 288p

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  • 1,672円(税込)

スキル

健康医学

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目次


はじめに ―時間術の“不都合すぎる”真実 序.時間術の罠に気づく ―時間の使い方について誰もが間違う3つの真実 1.時間の正体を知る ―あなたが時間をうまく使えない驚くべき理由 2.未来をやり直す ―「予期」の精度を高める13の方法 3.過去を書きかえる ―「想起」を正しく使いこなす11の方法 4.効率化から解き放たれる ―時間を“うまく使いたい”気持ちが時間不足を起こす理由 終.退屈を追い求める ―あなたから時間の余裕を奪う最大の難敵 おわりに ―ほどほどの誤りを受け入れる


日々「時間に追われている」という焦燥感や不安に苛まれるビジネスパーソンは多いのではないだろうか。それを解決するための、いわゆる「時間術」「時間管理」の情報は世にあふれている。 しかしながら、多くの人がそれを実行したにもかかわらずパフォーマンスが上がっていないようだ。どうしたらいいのか。 本書では、著者が時間に関する研究を2,000件近く調べ、さらには認知科学、心理学、経済学、医学の各分野から国内外の専門家約20人に最新の見解を尋ねた結果導き出した、時間不足を根源から解消する方法と考え方を解説している。 既存の時間術のほとんどが、個人のメンタル面には効果が認められるものの、期限を守って成果を上げるといった仕事の効率化やパフォーマンス向上には結びつかないことが、マッキンゼーとオックスフォード大学の共同研究で確かめられている。効果を上げるためには、各個人の時間感覚のパターンを知り、それに合った対策や技法を適用するべきだという。 著者は科学ジャーナリスト。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ね、多数の執筆を手がける。


脳の「確率を見積もる機能」が「過去」と「未来」を生み出す

 人間の脳が持つさまざまな働きの中で、近年の認知科学では「確率を見積もる機能」の存在を重視します。私たちの脳は目の前で起きた現象に過去の体験が当てはまる確率を見積もり、その結果をもとに自分のリアクションを組み立てます。  たとえば、ビル解体の専門業者が巨大なビルを解体し、そのあとに瓦礫の山ができあがったとしましょう。言わずもがな、誰もが「ビルが壊れて瓦礫の山ができたのだろう」と考えるでしょう。このとき、脳内では以下の情報処理が行われます。 (1)「瓦礫の山がある」という情景が視覚情報として脳に送られ、「瓦礫」に関する情報が記憶のデータベースから取り出される (2)記憶のデータを使って確率計算を行い、「瓦礫の山はもとは建築物だった確率が高い」と推定する (3)再び同じような計算を行い、「誰かが片づけない限りは、今後も同じ状態が続く確率が高い」と推定する  ステップ(2)で生まれたのが「過去」で、ステップ(3)で生まれたのが「未来」です。どちらの場合でも「目の前に瓦礫がある」という現在の情報をもとに計算が行われ、「過去または未来の出来事としての確率が高い世界」が生み出されました。  脳が持つ確率の計算機能を考慮すると、私たちが感じる過去と未来は、こう表現できます。 ◎未来=いまの状態の次に起きる確率が高い変化を、脳が「予期」したもの ◎過去=いまの状態の前に発生した確率が高い変化を、脳が「想起」したもの  ここにおいて私たちは、「時間管理のシンプルなフレームワーク」にたどりつきました。それは、次のようになります。 ◎正しい時間術とは、あなたの「予期と想起」を調整するものである

未来の「予期」と、過去の「想起」による時間感覚8タイプ

 たいていの人は、予期が4つのパターンに分類できます。 (1)予期が薄い:「将来のイメージ」とのつながりを感じられない状態 (2)予期が濃い:「将来のイメージ」につながりを感じられている状態 (3)予期が多い:「将来に発生しそうなイベントの数」が多い状態 (4)予期が少ない:「将来に発生しそうなイベントの数」が少ない状態  はじめの2つは、「予期のリアリティ」に関わるポイントです。10年後の自分を考えてみてください。あなたは、頭に浮かべた10年後の自分を、年を取った自分自身のことだと感じられるでしょうか? この質問に「10年後の自分もいまと全く同じ自分」と答えた人は「予期の現実感が濃い」と判断され、「完全に別人」と答えたなら「予期の現実感が薄い」とみなされます。  残りの2つは、脳が割り出した予期の総数のことです。たとえば「1週間後の自分は書類の整理や企画書の準備をしている確率が高い」といったように脳の計算結果が1~2つにとどまるなら「予期の数が少ない」と言えますし、将来のイメージが複数に及ぶなら「予期の数が多い」と言えます。  予期の濃淡と多寡の組み合わせによって、私たちの時間感覚には(*以下のような)複数の“個体差”が生まれます。それぞれに適した対策を選ばねばなりません。 (1)禁欲家(予期が濃くて少ない):将来の自分とのつながりが強く、すべきことが明確な状態です。そのため自然と時間の見積もりがうまくなり、生産性も高い傾向があります。しっかり計画を立て作業をこなすが、人生の喜びを見失うことも。 (2)容量超過(予期が濃くて多い):将来の自分とのつながりは強いものの、すべきことのイメージが多すぎる状態です。それぞれのタスクに強いつながりを抱くため、激しい焦りと圧倒されたような気分が生まれやすく、最終的にどの作業も進まなくなりがちです。いつも時間に追われて焦っており、キャパオーバー気味。 (3)浪費家(予期が薄くて多い):将来の自分とのつながりが感じられないのに、すべきことのイメージがいろいろと頭に浮かび続けている状態です。遠い未来のタスクに現実感を抱きづらいせいで重要度が低い目の前の作業を優先しがちで、時間を浪費した気分に襲われることが多くなります。 (4)無気力(予期が薄くて少ない):将来の自分とのつながりが感じられず、すべきことのイメージも限られた状態です。将来の姿が漠然としているのに加えて、具体的な行動をうながす目標の数が少ないので、無気力と怠惰に襲われやすいタイプだと言えます。  次に、あなたの時間感覚を左右する想起のパターンを見てみましょう。私たちの想起は、大きく4つの要素でできています。 (1)想起が正しい:取り出した記憶が実際の出来事を反映している状態 (2)想起が誤り:取り出した記憶が実際の出来事とは異なる状態 (3)想起が肯定的:取り出した記憶の解釈がポジティブな状態 (4)想起が否定的:取り出した記憶の解釈がネガティブな状態  想起も肯否と正誤の組み合わせによって“個体差”が生まれます。 (1)自信家(想起が肯定的で正しい):過去の記憶が正確で、イメージすべきことが明確な状態です。そのため時間の見積もりがうまく、生産性も高い傾向があります。難しい作業にも果敢に挑むが、時に自分を過信して失敗。 (2)楽天家(想起が肯定的で誤り):過去の時間の使い方を間違って記憶し、さらにそれをポジティブに解釈している状態です。誤った記憶にもとづいて行動を起こすわりには、自分の能力への自信が大きいため、スケジューリングがうまくいかず、重要度が低いタスクに時間を浪費しやすくなります。時間の見積もりが甘いが何とかなると思ってしまい、同じ失敗をしがち。 (3)怖がり(想起が否定的で正しい):過去の記憶は正しいものの、その内容をネガティブにとらえている状態です。過去の嫌な体験を行動の基準に使うため、有益なタスクに手をつけられず、無為に過ごす時間が増えやすい傾向があります。 (4)悲観主義(想起が否定的で誤り):記憶の解釈がネガティブなうえに、さらにその内容にも誤りが多い状態です。そのせいで将来が不安に満ちたものに感じられ、重要なタスクに取りかかるのを避けがちになります。

必要な作業時間を正しく見積もるための「タイムボクシング」

 「仕事の量は、与えられた時間を満たすように拡大する」。イギリスの歴史学者C・N・パーキンソンは、1958年にこんな言葉を残しました。実際には1週間でこなせる仕事でも、2週間の余裕を与えられたら、作業が終わるまでに必ず2週間かかってしまう。そんな普遍的な現象を表現したものです。  それまでは丸1日をかけて作っていた書類を、上司から急な仕事を頼まれたあとは、同じ作業を半日で完了できたようなケースはよく見かけます。本来は書類を半日で作れる能力があるのに、「1日」という枠組みを与えられると、その時間をフルに使い切ろうとしてしまうわけです。このような現象は、予期が薄い人ほど起きやすい傾向があります。  この問題に立ち向かうためには、「タイムボクシング」が最適です。情報工学者のジェームズ・マーティンがソフトウェア開発のために提唱した技法で、あらかじめ特定のタスクに一定の時間を割り当て、その枠内で作業を終わらせるシンプルな技法です。  タスクに割り当てた時間は「ボックス」と呼ばれ、そこに具体的な期限や目標、成果、マイルストーンなどを設定するのがタイムボクシングの基本。このボックスは絶対的な存在で、事前に決めた時間に達したら、まだ作業が終わっていなくても仕事を切り上げねばなりません。  1日のボックスが終わったら、その日の最後に結果の評価を行います。「目標は達成できたか?」や「予定どおりにいかなかった場合は何が問題だったのか?」を考えたうえで、その日に終わらなかったタスクを翌日のボックスに再配分してください。  実際に試すとわかりますが、タイムボクシングで予定を組むと、予期が薄い人ほど、焦りや不安がやわらいだ気分になるでしょう。すべてのタスクをボックスに組み込むことで将来の自分がより身近に感じられ、自分の時間を自らの意思でコントロールできている感覚が生まれるからです。 ※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

コメント

本書では、時間感覚を調整するために「退屈を突き詰める」方法も提案されている。あえて「つまらない」と感じる行為を一定時間行うというもので、例えばハーバード大学のラドクリフ高等研究所では「特定の絵画を3時間かけて見つめる」実験が行われている。被験者たちは、開始後しばらくは退屈さに苦痛を感じたが、次第に絵画を細かく観察するようになり、ゆったりとした時間を楽しむようになったという。長時間、退屈な時間を過ごすことで、「予期」や「想起」の歪みが修正され、フラットな時間感覚を取り戻すことができたのだろう。「時間」に対する焦燥感や不安を取り除くには、まずは時間について落ち着いてじっくり考える“時間”が必要なのかもしれない。

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