serendip logo

書籍

発刊 2023.02

マーケティング思考

業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること

  • 山口 義宏

  • |

  • 翔泳社

  • |

  • 224p

  • |

  • 1,760円(税込)

経営

人材

book image

目次


はじめに 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること 1.なぜ「マーケティング」は難しいのか 2.成果を出すOS=「マーケティング思考」 3.マーケティング思考を構成する3つの共通言語 4.事業フェーズ別の考え方・判断基準 5.「マーケティング思考人材」育成の成功法則 おわりに 人に向き合い、人が成長して事業に還元されることへの挑戦


ビジネスの世界にはさまざまな専門用語があるが、中でもメジャーなのが「マーケティング」だ。 企業はすべからく、モノやサービスを顧客に売り収益を得る組織なので、どんな業種であってもマーケティングとは無縁ではない。しかし、この言葉は、人によってさまざまな定義で用いられているのではないだろうか。 本書では、マーケティングを「顧客体験にかかわるすべての業務」と広義にとらえ、その戦略や施策のOS(オペレーティングシステム)となる共通言語を「マーケティング思考」と名付けている。そして、マーケティング思考をベースにして成果を出せる組織・チームの要件と育成法について、陥りやすい落とし穴にも焦点を当てながら解説。 マーケティング思考は、よく知られる「誰に? 何を? どのように?」というフレームワークで説明できるという。すなわち、顧客理解と顧客価値、そして具体的な施策の入り口から概要までを理解し、考えられるのがマーケティング思考である。 著者は、株式会社グロースX取締役COO/インサイトフォース株式会社取締役。リンクアンドモチベーションなどを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームのインサイトフォースを設立。2021年より株主および戦略アドバイザーとしてグロースXに参画。


人によって微妙に定義が異なる「マーケティング」

 マーケティングを理解しようと学び始めた人のなかには、熱心に多くの書籍やセミナーを体験し、それぞれが主張する「マーケティング」をたくさん目にした人も多いと思います。そして、それぞれの定義が微妙に異なったり、あまりに抽象度の高い話に触れたりすることで、混乱が起きているシーンが散見されます。概ね、その全体像ではなく小さな一部分を切り取った機能・業務・施策を「マーケティング」と呼ぶ習慣が定着しています。  企業内の実務としてマーケティングがかかわる機能・業務を、あえて2つに分けるとすると、市場・顧客の理解から商品企画は「価値をつくる業務」で、広告宣伝・PRから販売までは「価値を伝えて売上に換金する業務」となり、成果を出すための車の両輪といえます。狭い意味で切り取ったマーケティングという言葉は、後者の「価値を伝えて売上に換金する業務」でたくさん目にする印象があります。  本書では便宜的に、「マーケティング」という言葉をそのまま使う場合は、「顧客体験にかかわる取り組み業務すべてを指す、広義の意味でのマーケティング」として書いていきます。  特定の狭い役割の部門に「マーケティング部」とつけることや、特定の役割を担う人に「マーケター」という呼称を社内で与えてしまうことは、組織自らが「マーケティング」という概念と活動を狭く理解するミスリードをつくり出しているといえます。マーケティングにかかわるのは、マーケティング部だけではなく、マーケティングはマーケターという職種名の人だけが担うわけでもありません。  化粧品会社、ポーラオルビスグループでオルビスの社長を担う小林琢磨さんは「僕は、マーケティング部という部署が存在している会社はもうダメだと思っていますから。会社は、顧客がいないとビジネスにはならないわけです。特に、僕らみたいな、消費者が対象である事業であれば、会社そのものがマーケティングをやらなければいけない。マーケティングはマーケティング部門がやるのではなく、経営そのものだと思っていますから」とメディアの対談で語られていました。

「誰に? 何を? どのように?」で説明できる「マーケティング思考」

 事業成長をもたらすものは、外から見えやすくわかりやすい「何らかの唯一の施策」では説明がつかないことが大半です。実際に事業を伸ばした方々に話を聞き続けた結果、「外から見えやすい施策の内容以外で非常に重要」と認識されていることには共通性が高く、次の3つに集約できます。 ・戦略:マーケティング施策の背景にある戦略 ・知識・スキル:マーケティング施策実務を推進する組織メンバーの知識・スキル ・社内外チーム連携:顧客体験の視点から、多くの施策をスムーズかつ効果的につなげる社内と社外の組織との密な連携  このうち、戦略は究極的には腕の良いひとりが立てればなんとかなります。ですが知識とスキルは組織メンバーに身につけてもらう必要があり、それをもって3つ目の連携を推進するという構造があります。  ここで組織メンバーに身につけてもらいたいのが、「マーケティング思考」です。これは、多くの人が聞いたことがあるはずのフレームワークで説明できます。 ・誰に?:どのような顧客に(顧客理解) ・何を?:どのような価値を(顧客価値) ・どのように?:どのような施策で届けるか(4P〈Product, Price, Place, Promotion〉施策)  インターネットの普及やデジタル化の前と後では、4P施策の選択肢の数が桁違いに増えているうえに、その変化の速度も上がっています。商品・サービスにおいても、リリースしたら終わりではなく、データでフィードバックを得る仕組みが増えたことで、常に改善を続けられるようになった業界も増えています。  すると「施策の領域が増えたなら、展開する施策領域ごとに専門家をチームに引き入れればいい」という話になります。そのような専門家は、社員の場合もあれば、フリーランスや広告代理店への業務委託の場合もあるでしょう。  しかし、こういったチームの布陣をそろえたはずなのに、マーケティング施策の展開で成果を出せないままの企業はたくさんあります。理由の1つは、SEO、デジタル広告運用、動画制作、記事制作、PRなど何らかの施策を実行するノウハウや情報を持っている専門家が、「誰に?」の顧客理解と「何を?」の顧客価値の整理が強いとは限らないということです。  また、何らかの施策の専門家は、その施策には詳しくても、「そもそもこのタイミングで、どの施策から投資するべきなのか? 最適な投資配分はどの比率か?」の専門性や経験は備えていないことがあります。仮にその判断をする知識や見立てがあったとしても、自分が担う施策の予算を削る方向の主張をする人は稀です。自らの仕事を失うリスクを負うため、口にしないのが常です。  一方で、施策候補を横並びで比較して、優先的に投資する施策を決めるには、それぞれ候補になる施策の知識がゼロでは評価ができません。その施策で期待できる投資とリターンの金額の桁がずれないよう、施策を展開する場合の勘所くらいは押さえておかないと、全体最適の判断は難しくなります。つまり、「施策に関する広くて浅い知識」が必要なのです。  また、何らかの施策で成果を出そうとする場合、施策間の連携や訴求の一貫性は重要です。たとえば、商品・サービスが提供する本質的な価値とずれているけれど、上手に煽ったPRや広告を大規模に展開すれば、新規顧客を一時的に獲得できるかもしれません。ただ、商品体験が事前の期待とずれれば、リピート顧客にはならず、LTV(顧客生涯価値)は伸びず、顧客獲得にかかった投資を回収できないためビジネスの持続性はありません。  つまり、マーケティングで良い成果を上げるには、各施策の担当者同士が連携し、役割の分断を乗り越え、双方向で意見をすり合わせて調整しないといけません。SEOの担当者だけれど、広告運用やLPに関心を持つ。マス広告担当だけれどSNSや店頭現場の販促物の知識を持つ。こういった自分の担当や専門領域以外の知識を、浅く広くでも良いので学び、協働できるチームが実際に成果を出せるチームです。

各施策がOSであるマーケティング思考と組み合わさることで、成果が出る

 顧客体験の接点・施策という広義の意味でのマーケティングにかかわる人は、その全員が自分の専門領域に加えて「誰に?」「何を?」と、「どのように?」の施策の幅広い入り口~概要部分までを学び、扱いこなせるようになることが大切です。本書では、この領域が「マーケティング思考」であり、マーケティング業務におけるOS(オペレーティングシステム)と位置づけています。何らかの施策のメンバーや専門家で、安定して成果を出せる人は、このOSを備えている可能性が高いということです。  施策の専門性は、OSと組み合わさってこそ安定して成果が出るので、それを人選や教育で担保することが大切です。マーケティングの世界においては「最新トレンドの施策手法の細部に詳しいわけではないけれど、安定的に成果を出す人」や「マーケティング施策の知識は大してないけれど、顧客理解や顧客価値の見立てがよく、やたら成果を出す創業経営者」とは、すなわちOSとなるマーケティング思考のレベルが高い人です。  なお、事業・商材単位の事業軸でマーケティングメンバーを集めて編成した組織の場合、商材と施策のマトリクスで人が配置されるため、メンバーが増える傾向にあります。その弊害として似たような施策を商材が違うという理由だけで異なるメンバーが担っていることが、コストの非効率として目につく場合が増えます。  その際は組織構造を変更し、事業・商材を横断したマーケ機能(主にコミュニケーション部分)を集約した組織構造への変更で解決を試みることが多くなります。マーケティングチームが事業部軸の編成から、横串の機能別組織に転換するイメージです。

コメント

本書でも言及されているのだが、マーケティングで成果を上げるには、チーム全員、さらに言えば全社員が「T字型人材」であることが望ましいのではないか。Tの横軸に「誰に? 何を? どのように?」というマーケティング思考を、縦軸に何らかの専門領域を持つ人材だ。変化の激しい時代には、たとえ縦軸が一見マーケティングとは無縁の領域であっても、横軸をしっかり持っていれば、他社と差別化できる斬新な施策を生み出せるかもしれない。

>> トップページへ戻る

serendip logo
johokojo logo